daydream
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Keiko様



   幼い頃、父親か誰かが読んでくれた絵本で、どこかの国のお姫様が、
魔女か何かの魔法で(呪いだったかな?)青いぶたになってしまうという
おとぎ話があったことをふと思い出していた。
 私がまだ、4歳か5歳かそのぐらいだったために詳しいことは覚えていない。
そんな私こと、ヤン・ウェンリーが、何故そんなことを思い出したかというと、
いつものように目が覚めてシャワーを浴びようと思ったら、鏡に映った
自分の姿が青いこぶたになってしまっていたのである。
 しかも、普通のぶたの容姿ではなく、うちの上層部唯一の女性将官が
我を忘れて喜びそうな丸い身体のぶただった。

(なんで、ぶたなんだ)



 何かを喋ろうとすると、きゅう、と情けない声が聞こえてくる。

(・・・・せめて、ものすごくカッコイイ俳優になってほしかった)

 などと、わけのわからないことを考えながら、私は半分ほど開いていた
窓から外へと出た。

 外、と言ってもここは人工要塞であり、人工大気が広がる世界である。

 走っても走っても、人もいないし、空腹に襲われた。

(とりあえず、セレスかアッテンボローあたりに飯でも食べさせてもらおう)

 と、思って官舎から出たがどんなに走っても、走っても、辿り着けなかった。

「きゅう」

(腹減った、疲れた、もう駄目だ)

 私は、公園のベンチで倒れこんだ。

「あれ?ねえ、ダスティ、可愛い」

 しばらく寝ていると、聞き覚えのある声が聞こえ、甘い香りがした。
柔らかい肌、優しい鼓動が安心感を与え、まるで赤ん坊が母親に
抱かれているようなそんな安心感が私を包み込んでいる。

「こんなところにぬいぐるみ、忘れ物かな?」

 低い声、人懐っこいそばかす顔のやさしい笑顔が私の眼前に飛びこんできた。

(アッテンボロー、セレス、会いたかったよ〜)

「きゅう」

「「わ、動いた!?」」

 二人は同じように叫んだが、すぐに私の顔を覗きこんだ。

「ねえ、この青いぶた、瞳が黒いよ〜」

「可愛いな〜」

「お腹すかない?」

 この二人は猫とか犬に目がなく、子供時代は「飼いたい」と駄々をこねて
親を困らせていたらしい。
 現在、セレスは白い大きな、毛の長い「チンチラ」という猫を飼っていて、
大の小動物好きとして有名だった。

(腹減った、何か食わせてくれ)

「あっ、サンドイッチ、持ってるよ。ダスティ、バックに入ってるから
食べさせといて。私、ミルク買ってくる」

「ああ」

 セレスは走って近くのコンビニに向かった。

「卵サンドだな、美味いぞ」

(セレスの料理はマダム・キャゼルヌと同じぐらい美味いよな〜)

「きゅう」

 アッテンボローの膝の上で食べるサンドイッチは今まで食べたことのある
中でも一番美味く感じた。

「はい、ミルク。飲める?」

 平たい銀色の使い捨ての皿に並々と注がれた白い液体。
冷たかったが、とにかく必死に飲み干した。

「ねえ、ダスティ、どうする?」

「どうする?って」

「だって、このぶた、人慣れしてるでしょ?ペットか何かだよ〜」

 満腹になった私は、アッテンボローにしがみついた。

「とりあえず、キャゼルヌ先輩に相談・・・」

「きゅう」



(やめろ、やめてくれ。キャゼルヌ先輩はまずい)

 あの人は、きっと、私を見るなり「処分しろ」などと言うだろう。
不必要なものは排除すると冷淡な口調で言うだろう。

「ねえ、キャゼルヌさんには内緒にしない?
 とりあえず、私、ラオさんあたりに相談してみる」

「きゅう」

(セレス、わかってくれたかあ?)

 アッテンボローの腕の中からセレスの胸元にしがみつくと、
私は柔らかな胸に顔をうずめた。

「おい、それは何だ?」

「キャゼルヌさん」「キャゼルヌ先輩」

 二人は親に隠しごとをしてばれたような表情を浮かべた。

(キャゼルヌ先輩、私に近づくな)

「きゅう」

「ほう、これはなんだ?セレス」

「見てわからない?今、流行の青いぶたのぬいぐるみ」

「そう、そう」

 な〜と二人は顔を見合した。

「初耳だな、おい」

(よるな、触るな、近づくな)

「何だか、誰かさんに似てる目をしているな」

(え?)

「そういえば、ヤン先輩に似ている」

「とりあえず、お前たちが責任を持って育てろよ」

 優しい笑顔を浮かべたキャゼルヌ先輩はサングラスをかけて、
立ち去っていった。

「良かったな〜」

「キャゼルヌさん、実はやさしいんだね」

(本当に、助かった)

「きゅう」

 優しい笑顔の二人と共にアッテンボローの官舎へ向かうと、
セレスが料理を始めた。



「アルバム、見るか?」

 士官学校時代のアルバムを取り出すと、テーブルの上に広げた
アッテンボローは私をテーブルに乗せた。

 少年時代のアッテンボローとラップ、それから私とキャゼルヌ先輩、
セレスが映っていた。

「あの頃から、ダスティ、ヤンさんのことが好きだったのよね〜」

「ああ」

 セレスは鼻歌交じりでオーブンに三人分のグラタンを入れて、
ミルクとビールを持ってきた。

「今思うと、塀を乗り越えて良かったな〜と思うよ」

 ふっと、穏やかな表情を浮かべたアッテンボローを見た私は、
思わず抱きついた。

「どうした?甘えっこだな」

(アッテンボロー、私もお前のことが昔から好きだったよ〜)

「きゅう」

「さてと、ヤンさん呼ぼうっと」

 彼女はさらさらな髪を下ろすと、私の部屋に電話をかけた。



-―――「んっ、うるさい」

 ゆっくりと起きて、電話の子機を取った。

「ヤンさん、夕食できたから、ダスティの官舎まで来て」




 セレスは一方的に言うと、即、電話を切った。

「いつも一方的だな」

「あれ?」

 鏡に映った私の姿は白いシャツ、黒のジーンズ姿だった。

「あれは、夢だったのか?」

 シャワーを急いで浴びて、コットンシャツとブルージーンズに着替えて、
近くにあるアッテンボローの官舎へ向かった。

「いらっしゃい、先輩」

「今夜はなんだい?」

 セレスがテーブルの上に置いた食事を見て、私は思わず驚いてしまった。

「今夜はね〜グラタン♪」

「先輩、どうしたんですか?」

「いや、別に」

 あれは、夢だったのか、それとも、と思いながらソファーに座ると、
窓辺に置かれた青いぶたのぬいぐるみが目に飛び込んだ。

「あっ、これ?ユリアンから貰ったの」

「かわいい、な」

「でしょ」

 私は、アッテンボローからビールを受け取ると、彼の真向かいに
セッティングされた席に座った。


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■管理人:有━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 けいこさまありがとうございましたV
この作品がここに至る経過はまさに運命のいたずらとしか思えません・・。
 青子ぶたを気に入って下さって快く寄稿してくださり本当に感謝です!
いやぁ、偶にはこんな事もあるんだなあと(失敗含めですが)嬉しさ満面です。
 
 挿絵について>とうとう我がサイトにもけいこ様の看板娘ちゃんの
『セレス』さん登場!
 久々の女の子に胸が高鳴るわ・腕はきしむは、なによりもどれよりも、
その前に「私が描いていいんか〜い!?」と、自己つっこみしながら
ちょこっと絵を追加させて頂きました。
 (注意:一応かなり迷惑なくらい執拗に確認して了承はいただきました♪)
本編は勿論シリーズ化してけいこ様のサイト[dearest]
にて公表されておりますので是非ともそちらをご鑑賞下さいませ。
 
 このお話の挿絵についてはう〜ん、ここまで来るともうごめんなさい〜。
イメージ合わなくても文句は私にということで・・宜しくです。
あと、洋服・・・勝手に私服にしてしまいました。(泣)
けいこさんはきっと懲りたろうなぁ・・。 

 も〜食べ物のシーンが美味しそうでしょ〜!(食べ物の描写スキなんで♪)
それよりも、驚きなのはけいこさんのヤンさんは感情が結構ストレートだなぁ
と常日頃思っておりました。
 えっ?言葉にするとか顔に出すとかというストレートではなく、
『自分に素直』なんですよね。
結構鈍くさいイメージも強いですが、自分の気持ちもわからない〜ではなく
ちゃんと自覚も問答もしている・・・という点では私的には結構珍しくて。
 しかも、けいこさんのアッテンボロー氏は大人なんですよ・・・廻りが子供に
なっちゃって取り合ってる感じで微笑ましさ大爆発!
 いやいや、今宵は作品の魅力を語るとほんとに眠れなくなりそうなので
この辺で(怪しい司会者だな・・・)

 本当にけいこ様ありがとうございましたV
 

<H15.11/12展示>











































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